未利用空間を活用したグリーンインフラ導入戦略：遊休地・高架下等の多機能転換事例
未利用空間活用によるグリーンインフラ導入の意義
現代の都市や地域においては、社会構造や産業構造の変化に伴い、様々な未利用空間が発生しています。これには、旧工場跡地、廃線跡、高架下空間、遊休農地、あるいは空き家や老朽化した建築物の跡地などが含まれます。これらの未利用空間は、適切に管理されない場合、景観の悪化、防犯上の懸念、あるいは負の資産としての側面を持つ可能性があります。
一方で、これらの空間をグリーンインフラとして計画的に活用することは、都市や地域が抱える多様な課題に対する有効な解決策となり得ます。グリーンインフラは、自然が持つ機能を活用することで、環境、防災、地域経済、そして住民のウェルビーイング向上に貢献する多機能な空間・ネットワークを創出する考え方です。未利用空間をグリーンインフラに転換することは、新たな用地取得が困難な状況下で、既存資源を最大限に活かす持続可能な都市・地域づくりのアプローチと言えます。
未利用空間の類型とグリーンインフラとしての活用例
未利用空間と一口に言ってもその性質は様々であり、適したグリーンインフラの機能や形式も異なります。主な類型と活用例を以下に示します。
- 遊休地・空き家跡地: 比較的狭小なスペースであっても、ポケットパーク、コミュニティガーデン、防災空地、雨水浸透施設付きの小広場などとして活用可能です。地域住民の交流拠点、生物多様性の保全、都市内での緑量増加に貢献します。
- 廃線跡・高架下空間: 線状に広がる空間特性を活かし、緑豊かな歩行者・自転車ネットワーク（緑道）、線形公園、あるいは高架下の空間を利用した垂直緑化や雨水利用施設などとの複合的な活用が進められています。交通インフラの再構築と緑のネットワーク形成を両立させる事例が見られます。
- 工場跡地・産業遺構: 広大な面積を持つことが多く、再開発と連動して大規模な緑地、ビオトープ、調整池機能を持つ公園、環境学習の場などを整備する機会となります。過去の土地利用に起因する環境負荷への対応も同時に行う必要があります。
- 河川敷・遊水地: 治水機能が本来の目的ですが、平常時には自然観察、散策、スポーツなどレクリエーションの場として、あるいは地域農業と連携した多自然型川づくりなど、グリーンインフラとしての多機能化が進んでいます。
未利用空間活用による多機能効果
未利用空間をグリーンインフラに転換することで期待される効果は多岐にわたります。
- 環境機能の向上: 都市部の緑被率向上、ヒートアイランド現象の緩和、大気汚染物質の吸着、騒音低減、地域の生物多様性の保全・創出に寄与します。
- 防災・減災機能の強化: 雨水の貯留・浸透機能による内水氾濫リスクの低減、オープンスペースとしての避難空間確保、延焼防止帯としての機能など、災害に対する地域のレジリエンスを高めます。
- 地域経済の活性化: 新たな魅力ある空間の創出による観光客誘致、地域住民の活動促進、維持管理に関わる雇用の創出、近隣不動産価値の向上などが考えられます。
- 住民生活の質の向上: 身近な自然へのアクセス向上、レクリエーションやコミュニティ活動の場の提供、精神的な健康増進、景観改善による居住満足度の向上に貢献します。
計画・導入に向けた視点と課題
未利用空間をグリーンインフラとして成功裏に導入するためには、いくつかの重要な視点と課題への対応が必要です。
- 現状と課題の正確な把握: 土地の所有形態、法的制約、過去の履歴（土壌汚染の可能性など）を詳細に調査するとともに、地域のニーズや潜在的な課題（地域住民の交流機会不足、防災上の脆弱性など）を丁寧に洗い出すことが計画の出発点となります。
- 多機能デザインの追求: 限られた空間や特性のある空間で複数のグリーンインフラ機能を発揮させるためのデザインが重要です。例えば、雨水管理施設と一体化した広場、生態系保全とレクリエーション利用を両立させる緑地などです。
- 多様な主体との連携: 未利用空間の活用には、土地所有者、地域住民、企業、NPO、専門家など多様な主体の連携が不可欠です。ワークショップや協議会を通じて、共通認識の形成と役割分担を明確にすることが成功の鍵となります。民間主導または官民連携の手法（PFS/CISなど）による資金調達や運営体制の構築も検討されます。
- 維持管理計画の策定: 導入後のグリーンインフラを持続的に機能させるためには、適切な維持管理が不可欠です。初期計画段階から、維持管理体制、費用、人材確保について具体的に検討し、地域の主体が関わる仕組みを構築することが望まれます。
- 効果のモニタリングと評価: 導入したグリーンインフラが期待通りの効果を発揮しているか、客観的に評価するためのモニタリング計画を策定し、必要に応じて改善を図るPDCAサイクルを回すことが重要です。
まとめ
未利用空間は、ともすれば地域の課題となりがちですが、視点を変えグリーンインフラとして捉え直すことで、都市や地域に多大な恵みをもたらすポテンシャルを秘めた資源となります。これらの空間を計画的に、そして多様な主体との連携のもとにグリーンインフラへと転換していくことは、持続可能でレジリエントな地域社会を築く上で、今後ますます重要な戦略となるでしょう。具体的な導入にあたっては、個々の未利用空間の特性や地域の状況に応じたきめ細やかなアプローチが求められます。