グリーンインフラ最新動向

流域治水におけるグリーンインフラの役割:農地・河川空間の多機能活用

Tags: 流域治水, グリーンインフラ, 多機能化, 農地活用, 河川空間, 治水, 防災

流域治水推進におけるグリーンインフラの重要性

近年、気候変動の影響による降雨パターンの変化に伴い、全国各地で水災害リスクが増大しています。これに対し、国や地方自治体では、従来の河川改修やダム建設といったハード対策に加え、集水域から河川区域までの流域全体で治水対策を行う「流域治水」の取り組みが強化されています。流域治水は、氾濫をできるだけ防ぐ、被害対象を減少させる、被害の軽減を図るという3つの柱で構成され、多様な関係者との連携が不可欠です。

この流域治水を効果的に推進する上で、グリーンインフラの概念が重要な役割を果たしています。グリーンインフラは、自然が持つ多様な機能を活用し、社会課題の解決や地域の活性化を目指す取り組みです。治水分野においては、雨水貯留・浸透機能を持つ森林や農地、湿地、さらには都市内の緑地や雨水貯留施設などがグリーンインフラとして機能し、洪水ピーク流量の抑制や浸水被害の軽減に貢献します。流域全体でグリーンインフラを計画的に配置・維持管理することは、単に治水機能の向上だけでなく、生態系の保全・再生、景観向上、レクリエーション空間の提供など、複数の便益(多機能性)をもたらすことが期待されています。

農地・河川空間をグリーンインフラとして活用する実践

流域治水におけるグリーンインフラの具体的な実践として、農地や河川空間の多機能活用が進められています。

農地の多機能化

水田をはじめとする農地は、稲作期以外にも雨水の一時的な貯留機能を有しており、古くから治水機能の一端を担ってきました。流域治水では、この機能をさらに強化する取り組みが進められています。例えば、

これらの取り組みは、農業生産との両立を図りつつ、地域の治水安全度向上に貢献するものです。農業関係者や地域住民との連携、支援制度の活用が鍵となります。

河川空間の多機能化

河川区域やその周辺空間においても、グリーンインフラの考え方に基づいた整備が進められています。

これらの河川空間における多機能化は、治水管理者と地域住民、生態系専門家などが連携し、河川空間の潜在能力を最大限に引き出す視点が重要です。

成功事例と政策動向

国内外で、流域治水と連携したグリーンインフラの実践事例が増加しています。

例えば、日本のいくつかの河川流域では、河川管理者と市町村、農業団体が連携し、田んぼダムの普及促進や遊水地の多目的利用計画が策定・実施されています。また、特定の地域では、耕作放棄地を活用した湿地再生プロジェクトが、治水効果と希少種の保全を同時に実現しています。

政策面では、国の流域治水に関する計画や河川整備計画において、グリーンインフラの活用が明確に位置づけられるようになってきています。また、関連する交付金制度においても、グリーンインフラ的な手法を取り入れた事業が支援対象となるケースが増加しており、自治体における導入のインセンティブとなっています。

課題と展望

流域治水におけるグリーンインフラの推進には、いくつかの課題も存在します。例えば、農地や民有地における取り組みには、土地所有者や利用者の理解と協力が不可欠であり、合意形成に時間を要する場合があります。また、グリーンインフラの効果を定量的に評価する手法の確立や、長期的な維持管理体制の構築も重要な課題です。

しかしながら、グリーンインフラは単なる治水対策にとどまらず、地域の自然環境の質を向上させ、生態系サービスを享受し、人々のwell-beingに貢献する可能性を秘めています。今後の流域治水においては、多様な分野(農業、都市計画、環境、防災、観光など)との連携を一層強化し、地域資源としてのグリーンインフラの価値を最大化していく視点が求められます。

自治体においては、地域の特性に応じたグリーンインフラのポテンシャルを評価し、関係者間の協議を通じて、具体的な施策へと落とし込んでいくことが重要になると考えられます。